どろんこハリー

どろんこハリー (世界傑作絵本シリーズ―アメリカの絵本)
ジーン・ジオン
福音館書店
売り上げランキング: 13,191

冬の間、雪におおわれ、色も気配もなにもない山々。
その固く凍った土の下で、草花があらたな春を迎える準備をしているとは
とても思えないのだけれど、
それでも必ず季節はめぐり、春は確実に訪れるわけで。

はじめて山で迎えた春、
土からにょきっと芽を出したこの草はなんだろう、と思っていると、
みるみるうちに芽は大きくなって、
まぶしい程の黄色いスイセンの花を咲かせた時の感激は、忘れられない。
冬の間、球根の中で力を溜め込んでいたのよ、といわんばかりのその堂々とした輪郭は
なんとも芸術的で、心強かったものだ。

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以来毎年スイセンを見ると、はればれとした気持ちになる。
ひとすじのくもりもない真っ青な春の空のように。

石炭の時代、1956年に発表されたこの絵本。
まさに炭を使ったようなタッチの墨色と、春を彩る「やまぶき」と「よもぎ」の色。
そのシンプルな3色のみで、ハリーのどろんこぶりが炸裂する一日が描かれている。

バスタブでせっけんを泡立てる生活や、鉄道に機関車が走る光景など知らないのに、
どこか哀愁漂って感じられるのは、
その配色がどこか日本的で、なじみやすいからかもしれない。

しかし、ふたたび読み返すことで、
幼い頃から図書館や本屋にかならずあったこの「どろんこハリー」と、
おとなになった私との距離がぐぐっと近くなった気がするのは、
まぎれもなく、
ハリーの家の庭に、スイセンの花が咲きみだれていたからである。

100版を超えて読み継がれる絵本。
春のすがすがしさは、今も昔もかわらない、と
真っ黒になるまで駆け回るハリーを見ていて思う。