くつやのマルチン

くつやのマルチン―トルストイの民話より
トルストイ
西村書店
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「絵本ワールドinながの」と称して、
約10,000冊の絵本や児童書が集まるイベントが2日間に渡って開催されました。
長野の大型書店では、実際に手に取ってみれる絵本はまだまだ数少ないので、
このような機会はとても貴重です。
人形劇や読み聞かせなどもあるというので、楽しみにしていました。
会場は、びっくりする程ひとであふれていました。
親子連れが多かったけれど、
絵本を読みふけっている大人のひとも少なくはなかったような気がします。
こんなに絵本が好きなひとたちいるんだな….。
悪いひといないような気がして(笑)なんかうれしかった。

二日目には「ねぎぼうずのあさたろう」などで知られる飯野和好さんの講演が予定されていて、
私たちが会場に着いたとき、 飯野さんがちょうど会場入りされたところでした。
まるであさたろうのように、ぞうりを履き、めがねにひげで侍のよう。
主催者といろいろ挨拶をされている飯野さんの傍らで、
息子は飯野さんの絵本のところに突進していき、
「これがすみたろうだよ~~」とおおさわぎ。
「この着物きてるひとが、すみたろう描いたひとだよ」と言っても、関係ないようで、
「おならの絵本ある」「あさたろうよんで~」と息子ゴーイングマイウェイ。
それでいいんですよね。
きらいじゃないです、そういうの。息子らしくて。

さて、話がそれましたが、
今回のイベントで出会った一冊が、この「くつやのマルチン」です。
実を言えば、イベントから帰ったあと、
どうしてもこの一冊が気になって、とりよせたのですが、
それ程バーナデット・ワッツの絵が心をとらえて離さなかった。

ストーリーはトルストイが記した、キリストの愛を語る民話で、
知りませんでしたが、クリスマスの時期など教会でさかんに劇で演じられているお話のようです。

くつやのマルチンの家は、
表紙の絵を見てもわかるように、半地下にある。
仕事の手をやすめふっと顔をあげると、
道行くひとたちのくつがみえ、
あのひとがとおった、あのくつがとおった、と心におもい、
また手元に目線を戻し、くつを縫って日々暮らしているのでしょう。
閉鎖的で孤独でありながらも、どこか安心感もおぼえる「半地下」に惹かれます。
マルチンのつつましい暮らしぶりが潜在的に表現されているともいえます。

そしてマルチンは、
寒い中道を掃除するじいさんを、家の暖炉の前へ呼び入れあたたかいお茶をいれる。
あかちゃんを抱きコートも着ずさまよっている女性に、キャベツスープをたべさせる。
りんごうりのおばさんと、それを盗もうとした子供とのあいだに入り、温かなことばをかけてやる。

外は時間の経過とともに、風がふき、横降りの雪が降り出し、積もっていく。
マルチンの家の中は、それとは対照的に、
暖炉の火で少しずつ部屋はあたたまっていき、
部屋の色調もどんどん温たさが増してくるのです。
光の質感が実に素朴です。
暗くなり雪が舞う外からみた、マルチンの部屋の場面は、
なんでもないけどうつくしい。

水彩やパステルやペンなどいろんな画材を使って描いているように思いますが、
ワッツの絵にはとても魅力を感じます。
5年程まえに、斑尾の絵本美術館に行き、
誰の絵かも構う事無く気に入り、買ってかえったポストカードが、
ワッツの描いた「赤ずきん」のものでした。
惹かれるものはかわらないのだな、と嬉しくなりました。
こんなに心穏やかな気持ちにさせてくれる絵にあらためて出会えてよかったです。